月別アーカイブ: 2018年3月

CAATsとRPA・RDAについて

皆さん、こんにちは。

今回は、最近、話題になっているRPAとRDAについて、CAATsとの関連性に関する考察をお伝えしたいと思います。

RPA (Robotic Process Automation)とは、人間がPC操作によって行う、定型的もしくは反復的な作業を自動化する概念のことを言います。言い換えると、RPAはPCを使った事務作業を自動化するための技術と言えます。

これまで、人が行っていた作業をソフトウェアが代替するということで、Digital Laborともソフトウェアロボットとも言われています。

RPAとよく似た概念で、RDA (Robotic Desktop Automation)という言葉があります。RDAも定型的もしくは反復的な作業を自動化する技術のことをいいます。

RPAとRDAは、いずれも定型的もしくは反復的なPC作業特に高度なプログラミング知識がなくても簡単に設定できるという点では共通していますが、RPAは複数のアプリケーションを横断的に使用して一つの作業を完結する場合に適している一方、RDAは一つのアプリケーション内で作業を完結する場合に適しています。

これまでは、複数のアプリケーションの操作を有機的に結び付けて行う作業を自動化することが難しかったため、人がその作業を手作業で実施していましたが、RPAでは複数のアプリケーションの操作を一連の操作として簡単に登録して再実行できる機能を提供できるようになったことで、これまで人が行ってきた作業を自動化することができるようになってきました。

例えば、業務システムから特定の条件を設定してデータを所定のフォルダに所定の名前で保存し、EXCELで集計処理をしてレポート用のファイルを作成する作業や、PDF文書を読み込んで特定の箇所の文字をコピーして所定のEXCELファイルに貼り付けて表を完成させるといった作業等が自動化できます。特に専門的な判断やコミュニケーションが必要ない作業等はRPAを使うと自動化され、業務効率が飛躍的に向上します。

RDAはRPAと同様に事務処理の自動化を実現する技術ですが、対象となるアプリケーションが一つだけとなります。つまり、特定のアプリケーションで完結できる作業に適している技術といえます。

さて、監査という視点で考えた場合、RPAはどのように活用できるのかについて、考察してみます。

上述したとおり、「RPAは定型的もしくは反復的な作業を自動化できる」という点では、毎回使用する各種分析資料(期間比較表や月次推移表など)を自動作成するという作業に活かせる可能性はあります。ただ、それ以上のことは専門的な判断を伴う分析作業が主体となるため、作業の自動化というよりも、データを確認しながら条件を変えて分析をすることが通常であることから、監査にはRPAという技術はそぐわないと考えます。

また、データ分析は複数のアプリケーションを横断的に使用して一つの作業を完結するというよりも、分析しやすいアプリケーションを使用したほうが業務効率が高いため、RPAを利用する積極的な理由は見当たりません。

では、次に、監査において、どのようなRDAソフトウェアが最適かを考察してみます。

CAATsツール(ACL/IDEA)は、監査に特化したデータ分析ツールであり、高度なプログラミング知識がなくても簡単に作業の自動化ができることから、CAATsツール(ACL/IDEA)はRDAの一種といえます。

EXCELにも「マクロの記録」という機能があり、操作履歴を自動的に保存して、操作の再実行をすることができますが、実用的なレベルにするためにはVBA(Visual Basic for Applications:マイクロソフト製のMicrosoft Officeで実装されているプログラミング言語)でメンテナンスする必要があるため、ハードルが高いと言わざるを得ません。

一方で、CAATsツール(ACL/IDEA)には、操作履歴を自動的に保存する操作ログ機能があり、操作ログをスクリプトという簡易的なプログラムに簡単に変換でき、このスクリプトはプログラミングの知識がなくても簡単にメンテナンスが可能です。従いまして、監査においては、CAATsツール(ACL/IDEA)が最適なツールといえます。

RPA 、IoT 、FinTech など、様々な言葉が生まれては消え、また、生まれてきます。これからの監査人はそれぞれの概念や技術を自らの業務への影響を考えて研鑽を積んでいく必要がありますが、決して言葉に惑わされることなく、その本質を見極めて、身につけていくべき技能は何かを考えることが重要であると考えます。これからの監査人にとって、外せない技能はCAATsを実務で活用できる技能であり、この技能を身につけていれば、AIやロボットが幅広く社会に普及した時代になっても、AIやロボットを使いながら、自らの職務を全うできるようになると私は信じています。

 

※:CAATs (Computer Assisted Audit Techniques, コンピュータ利用監査技法)とは、監査人がコンピュータとデータ(IT)を利用して監査手続を実施する技法をいう。故に、CAATsを利用して監査を行うということは、ITを活用して監査を行うことと同義になります。日本では、CAATと表記されることが多いのですが、海外では、複数形のsをつけたCAATsと表記されることが多く、ICAEA(International Computer Auditing Education Association)でもCAATsという言葉を採用しているため、当BlogとしてもCAATsという言葉を使用しています。

 

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裁量労働制における不適切データについて

皆さん、こんにちは。

今回は、最近、話題になっている「働き方改革」関連法案の根拠とされていたデータに不適切と思われるデータがあったという点について、考察をお伝えしたいと思います。

安倍政権の肝煎りである「働き方改革」関連法案に含めた裁量労働制の対象拡大の根拠に疑義が生じており、関連法案の見送りなどが取りざたされています。今回の問題には、質問が同じレベルで行われなかったという点や、一般労働者の残業時間に不自然なデータが含まれていたという点などが指摘されています。

質問が同じレベルで行われていなかったという点については、今回の質問は、裁量労働制で働いている人に対して1日の平均時間を問いながら、一般労働者に対しては、1か月で最も残業の多い日の残業時間を聞いていたということが指摘されています。より実態に即したデータを収集するという観点からすると、質問先によって質問文を変えることに大きな違和感はありませんが、同じレベルのデータを収集できる質問になっていることが前提になります。今回の質問では、同じレベルのデータを収集できない可能性が高いことが問題視されており、結論ありきのデータ分析であると指摘されても無理はありません。

次に、データに不自然なデータが含まれているという点です。CAATs(※)では、まずは、入手したデータの信頼性を確認することが第一であり、大きな外れ値があった場合には、当該外れ値の内容を検討し、当該データを省いて残りのデータを使う、データを入手し直す等の検討を慎重に行うことが求められます。

分析結果の評価は、分析者もしくは分析を指示した人の判断に委ねられる部分が多く、恣意的にデータを作っていくこともできる場合があります。今回の分析結果が、結論ありきの分析であったかどうかは分かりませんが、CAATsでは、データ収集、データの信頼性の検討、データ分析、結果の評価という複数のプロセスで、それぞれのプロセスが適正に行われることが求められ、また、その実施過程の記録が求められます。今回のような事後的な調査を行う場合にも、実施過程の記録を検証することで、迅速に問題の所在を特定できる可能性が高いと考えます。このため、監査に限らず、今回のような法案の採否に関わるような重要なデータ分析や取締役会などで審議に使用する資料の作成など、企業の意思決定に影響を与えるような重要なデータ分析においても、CAATsは有効に活用できると考えます。

※:CAATs(Computer Assisted Audit Techniques, コンピュータ利用監査技法)とは、監査人が「コンピュータとデータ(以下、ITと表記)」を利用して監査手続を実施する技法をいう。故に、CAATsを利用して監査を行うということは、ITを活用して監査を行うことと同義になります。日本では、CAATと表記されることが多いのですが、海外では、複数形のsをつけたCAATsと表記されることが多く、ICAEA(International Computer Auditing Education Association)でもCAATsという言葉を採用しているため、当BlogとしてもCAATsという言葉を使用しています。

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監査人の技能再教育(リスキリング)

皆さん、こんにちは。

今回は、2月27日付の日経新聞電子版の下記の記事に関する考察をお伝えしたいと思います。

【AIと働き方(中) 多様なフリーランス台頭】

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO27392740W8A220C1KE8000/

『AIと働き方(中) 多様なフリーランス台頭』(栄藤稔 大阪大学教授 経済教室 コラム(経済・政治)2018年2月27日日経新聞電子版(※1))に『日本政府が提唱している科学技術政策の基本方針(2016~20年度)である、「ソサエティー5.0」時代には、AIとロボティクスによる自動化が加速し、生き残っていける職種と雇用形態も変化していくこと』を予想され 、また、『キーワードは技能再教育(リスキリング)だ。これまでは一般に20歳前後まで教育を受け、その教育に基づいて就職先を決め、定年まで働いて一生を終える人が珍しくなかった。そのモデルが自動化が大きく進むソサエティー5.0の時代では成り立たなくなる公算が大きい。』と述べられていました。(ソサエティー5.0については、※2をご参照ください。

この記事で興味深いことは、職種と自動化の関係を、職業を構成する業務が知識労働か作業労働か、定型か非定型かで単純化して象限を4つに分けた考え方にあり、この関係がとても分かりやすい図になっています(参照記事より引用)。

ある特定の職種の中にも非定型業務、定型業務、知識労働、作業労働のいずれも含まれている場合があるため、単純に職種単位でこの4象限のどれか一つに当てはめることが難しい側面もありますが、考え方を整理するうえでは有用であると考えます。

もし、現在携わっている職種、もしくは、これから携わろうとしている職種が定型、非定型、知識労働、作業労働という4つの軸で整理してみた場合、どの軸に近いかを考え、上図でいう第Ⅲ限と第Ⅳ象限に属している割合が多いと考えるのであれば、職種を変えるか、あるいは、その職種の中でも非定型業務と知識労働の部分を担えるような技能を磨く努力を行っていく必要があります。

この努力は、個々人が取り組むべき課題であることに間違いはありませんが、この記事のキーワードである「技能再教育(リスキリング)」は、社会的にも対応していくべき課題であると私は考えます。

「監査」という職種は、4つの象限に当てはめた場合、現状ではいずれの象限にも業務が散らばっていますが、これからは第Ⅱ象限と第Ⅰ象限が中心になっていくものと思われます。つまり、人手不足が深刻な監査業界においては、監査人がAIを駆使して効率的かつ深度ある監査を実現することが求められるようになると考えられます。AIを駆使するためには、監査人にはデータ分析の素養が必須となります。すべての監査人にデータ分析の素養を身につけてもらえるような「技能再教育(リスキリング)」に私は貢献していきたいと考えています

※1:日経電子版の会員限定の記事ですが、会員登録をすることで閲覧できます(有料記事については、数量が限定されています)。

※2:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました( http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html )。

 

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