CAATsと統計的サンプリングについて

皆さん、こんにちは。
今回は、統計的サンプリングにおいてCAATs(※1)を活用することで監査品質と業務効率の向上を同時に達成する方法をお伝えしたいと思います。
まず、統計的サンプリングについて簡単に解説します。統計的サンプリングは、監査証拠を入手するために実施する、監査手続の対象項目の抽出方法の一つです。この抽出方法は下記のように分類されます。
(1)精査
母集団からそのすべての項目を抽出する。
(2)試査
母集団からその一部の項目を抽出する。
①統計的サンプリング
確率論に基づいて、対象項目を抽出する。
②特定項目抽出
特定の条件に合致した項目を抽出する。

監査目的が、財務諸表全体の適正性に関して意見表明をすることである場合や、全体の内部統制の有効性や業務の効率性等を評価することである場合には、母集団から抽出した対象項目のテスト結果から全体の母集団の適正性を推定するという統計的サンプリングが適しているといえます。
一方で、監査目的が業務改善や不正・誤謬の発見である場合には、母集団全件を対象にした精査、またはテスト対象は一部になるものの、特定の条件に合致した対象項目は全件になる特定項目抽出が適しているといえるでしょう。

■監査環境の変化への対応
今ほど世の中にパソコンが普及していない25年前、監査人は統計的サンプリングを簡単に実施できる環境ではありませんでした。電話帳のように分厚い総勘定元帳や黒い紐で綴られた何束もの伝票綴りを相手に、総勘定元帳や伝票に最初から目を通して、気になる仕訳や伝票に付箋を貼ることで、テスト対象の抽出(以後、通査という)を行っていました。当時の抽出方法は、特定項目抽出が一番近いように思います。その理由は、通査をする際に意識・無意識を問わず、連番で綴じられているはずの伝票がなぜか前後していたり、日付が前後していたりなど、何らかの違和感を覚える取引を抽出していたからです。
取引抽出の目的は、財務諸表全体の適正性に関して意見表明をすることでしたが、実際には、不正・誤謬の発見に適した特定項目抽出という手法を利用していたことになります。これは私の個人的な感想ですが、当時の方が監査人の不正・誤謬の発見能力は高かったのではないかと思うこともあります。
パソコンが普及し、監査人が一人一台利用できる現在、改めて不正・誤謬の発見につながる監査をする方法を見出していく必要があります。

■CAATsツールで監査品質と業務効率が向上
その有効な手段として、CAATsがあります。
CAATsは、精査、統計的サンプリング、特定項目抽出のすべてに対応できます。CAATsツール(※2)を使用すると、大量のデータであっても全件を対象にしたテストを実施することが可能であり、統計的サンプリングも確率論に基づいたサンプル数の決定やサンプルのランダム抽出、テスト結果から母集団全体の評価まで、一連の手続も標準メニューから実行することができます。

統計的サンプリングにおいて、CAATsツールを下記のような手順において活用することで、監査品質と業務効率の向上を同時に達成することができます。(一般社団法人 国際コンピュータ利用監査教育協会主催『ICCP試験対策講座』教材より引用)

実務上、統計的サンプリングを行う場合、まず、困るのはサンプル数の決定です。
大手監査法人のようにリスクのランクや統制の実施頻度等に応じたサンプル数のテーブルがある場合には、当該テーブルを参照すればサンプル数を決めることはできますが、母集団の件数が所定のテーブルに合致しない場合等には、統計的にサンプル数を決定するには困難を伴う場合もあるでしょう。また、サンプル数のテーブルがあった場合でも、どのランクに相当するか判断に迷う場合もあり、厳密には確率論に基づいたサンプル数にならない場合も想定されます。CAATsツールを利用すると、『信頼度』、『母集団』、『許容誤謬率』、『予想誤謬率』というパラメータを入力するだけで確率論に基づいたサンプル数を簡単に決定することができ、属人的になりがちなサンプリングの手続を標準化できます。

次に、母集団からのサンプルの抽出も重要になってきます。
抽出したサンプルのテスト結果から母集団全体の評価を行う前提は、サンプルをランダムに抽出することにあります。EXCELやACCESSの乱数を活用してランダム抽出もできますが、母集団の件数が大量になると対応できない場合も出てきます。CAATsツールを利用すると、大量のデータを対象にして処理できるだけではなく、特に関数を組み合わせたり、マクロを組んだりすることなく、標準メニューでサンプル抽出ができ、操作ログも残るため、監査調書の効率的な作成が可能になります。

最後に、テスト結果に基づいた母集団全体の評価についてですが、確率論に基づいた母集団全体の評価はかなりハードルが高いように思いますが、これも、CAATsツールを利用すると、標準メニューで母集団全体の評価ができ、操作ログも残るため、操作ログをもとにしたスクリプトの活用による、監査調書の効率的な作成(調書作成の自動化)が可能になります。

監査実務上、サンプリングを確率論に基づいて実施するには何らかのツールが必要不可欠であり、そういう意味では、CAATsツールを利用する価値は非常に高いものがあると考えられます。

昨今では、AI(人工知能)やRPA (Robotic Process Automation)/RDA (Robotic Desktop Automation)(関連記事はこちら)が監査の未来を変えていくという概念的な議論が盛んですが、こうした基礎的な手順の実践的な監査技能の向上こそ、監査人が対応していかなければならないことではないでしょうか。

※1:CAATs ( Computer Assisted Audit Techniques, コンピュータ利用監査技法 )とは、監査人がコンピュータとデータ(IT)を利用して監査手続を実施する技法をいい、CAATsを利用して監査を行うということは、ITを活用して監査を行うことと同義になります。日本では、CAATと表記されることが多いのですが、海外では、複数形のsをつけたCAATsと表記されることが多く、ICAEA(International Computer Auditing Education Association)でもCAATsという言葉を採用しているため、当BlogとしてもCAATsという言葉を使用しています。

※2:CAATsツール:CAATs専用に開発されたソフトウェアのことであり、日本ではACL Analytics(開発元ACL Services Ltd.)とIDEAⓇが有名です。

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☆CAATsを学びたい方への研修情報!
https://www.icaeajp.or.jp/learning/courses/

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