皆さん、こんにちは。
今回は、『CAATs(※1)と非財務情報の開示について』というテーマで記事を書きます。
近年、企業評価において非財務情報の重要性が高まっています。非財務情報は、企業の財政状態や経営成績を示す財務情報以外の情報であって、主に環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関連した情報をいいます。「環境」には温室効果ガスの排出量、エネルギー使用量、廃棄物管理、資源の持続可能な利用などが含まれ、「社会」には労働条件、人権尊重、多様性の推進、地域社会への貢献、従業員の福利厚生などが含まれます。また、「ガバナンス」には企業統治の透明性、取締役会の構成、倫理規定の遵守、リスク管理体制などが含まれます。いずれも数値だけだは表せない定性情報が主な内容になっています。
これまでの財務情報だけでは、企業が将来にわたって継続的に収益を上げていけるかどうかの判断が難しくなってきたことから、非財務情報の開示に対するニーズが高まっています。とりわけ、非財務情報の中でも特に企業や社会が長期的に持続可能であることを目指す概念である「サステナビリティ」に関する開示基準が整備されつつあり、日本においても東京証券取引所プライム市場上場企業に対して、段階的に有価証券報告書等に開示を義務付ける案が出ています。開示が義務付けられた場合、投資家が開示情報を安心して利用できるために、第三者による保証が重要になり、どのレベルで保証をすべきかなどの検討が現在行われています。具体的な事例として、日産自動車株式会社が公表している「サステナビリティデータブック 2024(こちら)(以下、当ブック)」をご紹介します。当ブックによると、全体構成としては、「環境」、「社会性」、「ガバナンス」、「データ集」の大きく4つのパートに分かれており、それぞれ、主に定性情報が掲載されていますが、例えば、以下のように、計算された数値結果が表やグラフなどで表示されています。
いずれも計算に使用されるデータは多種多様であり、どのようにして数値の計算結果の正確性を確認するのかについての検討が必要になると考えます。現在は、主に表計算ソフトなどを使って、手動で確認をしている場合が多いのではないかと推察しています。また、定性情報の作成プロセスおよび計算結果に至るプロセスの内部統制の整備および運用状況の評価も検討されていると推察します。ただ、内部統制の整備および運用状況の評価で合理的な保証までできるのかについては、少し疑問が残ります。もちろん、各プロセスの内部統制は必須になると考えますが、内部統制がきちんと整備および運用されていたとしても、「おそらく大丈夫だろう」という心証は得られても、計算ミスやロジックミスが全くないという保証にはなりません。CAATsを利用すると、再計算と照合という手続きが実施できるため、数値の計算結果の正確性を完全に確認できます。再計算と照合は、会社が計算に利用したデータとロジックを監査人が入手し、監査人がデータ分析ツールを使って同じ計算を行い、その計算結果と会社の計算結果を照合する手続のことです。もし、監査人の計算結果と会社の計算結果が同じであれば、会社の計算結果が正しいという非常に強力な心証を得ることができるため、「合理的な保証」が可能になると考えます。
財務情報も複数のデータを利用してデータ分析を行いますが、非財務情報の場合、比べ物にならないほど多種多様なデータが必要になると想像しています。この時に、効率的かつ効果的に保証業務の手続を行うためには、利用するデータ分析ツールが重要になってきます。この点については、以下の特長を備えたCAATsツールを利用することが有効と考えます。
・データ編集が不可
・大量データの処理
・ログ(操作履歴)の記録
・スクリプトによる自動化
特に「データ編集が不可」という特長はCAATsツールに取り込んだ後はデータの編集ができないため、誤った計算結果になるリスクがありません。また、CO2排出量の計算や研修受講実績の集計などでは、大量のデータを扱うことが予想されるため、「大量データの処理」という特長も重要といえます。
THUMGY Data(サムジーデータ)(※3)はCAATsツールに分類されるデータ分析ツールであり、プログラミング言語の知識がなくてもプログラム(スクリプト)を作成できる機能が実装されており、大変、使いやすいデータ分析ツールになっています。THUMGY Dataの詳細については、以下のリンクを参照ください。
https://www.sankei-bc.co.jp/thumgy
今回は非財務情報の保証業務の話でしたが、今後も新しい形態の監査業務もしくは保証業務が出てくると思われます。一つだけ確実に言えることは、どのような形態の業務が出てくるかどうかにかかわらず、今後、ますます、監査人やビジネスパーソンにはデータ分析の素養が求められるということです。データサイエンスはハードルが高いと思われている方は、まずは、CAATsに取り組んでいただき、データ処理やデータ分析の基本スキルを身に着けてはどうでしょうか。
ICAEA JAPAN(※2)では、CAATs人材の育成プログラムをご用意していますので、ご興味のある方はお問い合わせください。
当記事の内容でご意見やご感想がありましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。また、CAATsに関するご質問があれば、遠慮なくお問い合わせください。
お問い合わせ先:https://www.icaeajp.or.jp/inquiry/contact/
※1:CAATs ( Computer Assisted Audit Techniques, コンピュータ利用監査技法 )とは、監査人がコンピュータとデータ(IT)を利用して監査手続を実施する技法をいい、CAATsを利用して監査を行うということは、ITを活用して監査を行うことと同義になります。日本では、CAATと表記されることが多いのですが、海外では、複数形のsをつけたCAATsと表記されることが多く、ICAEA(International Computer Auditing Education Association)でもCAATsという言葉を採用しているため、当BlogとしてもCAATsという言葉を使用しています。
※2:ICAEA JAPANとは、一般社団法人 国際コンピュータ利用監査教育協会の略称であり、CAATsを実務で活用できる専門家(=CAATs技術者)の育成・支援を行うことで、日常的な不正・誤謬を発見・防止することに貢献することを目指して設立されました( https://www.icaeajp.or.jp/ )。
※3:CAATsの普及を目的に、CAATsに長年携わってきた公認会計士が開発したCAATs専用ツール。開発および提供は三恵ビジネスコンサルティング株式会社が行っています。三恵ビジネスコンサルティング株式会社では、監査人が効率的にCAATsを実践できることを目的として、監査に便利なオープンスクリプトをWebサイトで提供しています(こちら)。