31_考察」カテゴリーアーカイブ

裁量労働制における不適切データについて

皆さん、こんにちは。

今回は、最近、話題になっている「働き方改革」関連法案の根拠とされていたデータに不適切と思われるデータがあったという点について、考察をお伝えしたいと思います。

安倍政権の肝煎りである「働き方改革」関連法案に含めた裁量労働制の対象拡大の根拠に疑義が生じており、関連法案の見送りなどが取りざたされています。今回の問題には、質問が同じレベルで行われなかったという点や、一般労働者の残業時間に不自然なデータが含まれていたという点などが指摘されています。

質問が同じレベルで行われていなかったという点については、今回の質問は、裁量労働制で働いている人に対して1日の平均時間を問いながら、一般労働者に対しては、1か月で最も残業の多い日の残業時間を聞いていたということが指摘されています。より実態に即したデータを収集するという観点からすると、質問先によって質問文を変えることに大きな違和感はありませんが、同じレベルのデータを収集できる質問になっていることが前提になります。今回の質問では、同じレベルのデータを収集できない可能性が高いことが問題視されており、結論ありきのデータ分析であると指摘されても無理はありません。

次に、データに不自然なデータが含まれているという点です。CAATs(※)では、まずは、入手したデータの信頼性を確認することが第一であり、大きな外れ値があった場合には、当該外れ値の内容を検討し、当該データを省いて残りのデータを使う、データを入手し直す等の検討を慎重に行うことが求められます。

分析結果の評価は、分析者もしくは分析を指示した人の判断に委ねられる部分が多く、恣意的にデータを作っていくこともできる場合があります。今回の分析結果が、結論ありきの分析であったかどうかは分かりませんが、CAATsでは、データ収集、データの信頼性の検討、データ分析、結果の評価という複数のプロセスで、それぞれのプロセスが適正に行われることが求められ、また、その実施過程の記録が求められます。今回のような事後的な調査を行う場合にも、実施過程の記録を検証することで、迅速に問題の所在を特定できる可能性が高いと考えます。このため、監査に限らず、今回のような法案の採否に関わるような重要なデータ分析や取締役会などで審議に使用する資料の作成など、企業の意思決定に影響を与えるような重要なデータ分析においても、CAATsは有効に活用できると考えます。

※:CAATs(Computer Assisted Audit Techniques, コンピュータ利用監査技法)とは、監査人が「コンピュータとデータ(以下、ITと表記)」を利用して監査手続を実施する技法をいう。故に、CAATsを利用して監査を行うということは、ITを活用して監査を行うことと同義になります。日本では、CAATと表記されることが多いのですが、海外では、複数形のsをつけたCAATsと表記されることが多く、ICAEA(International Computer Auditing Education Association)でもCAATsという言葉を採用しているため、当BlogとしてもCAATsという言葉を使用しています。

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監査人の技能再教育(リスキリング)

皆さん、こんにちは。

今回は、2月27日付の日経新聞電子版の下記の記事に関する考察をお伝えしたいと思います。

【AIと働き方(中) 多様なフリーランス台頭】

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO27392740W8A220C1KE8000/

『AIと働き方(中) 多様なフリーランス台頭』(栄藤稔 大阪大学教授 経済教室 コラム(経済・政治)2018年2月27日日経新聞電子版(※1))に『日本政府が提唱している科学技術政策の基本方針(2016~20年度)である、「ソサエティー5.0」時代には、AIとロボティクスによる自動化が加速し、生き残っていける職種と雇用形態も変化していくこと』を予想され 、また、『キーワードは技能再教育(リスキリング)だ。これまでは一般に20歳前後まで教育を受け、その教育に基づいて就職先を決め、定年まで働いて一生を終える人が珍しくなかった。そのモデルが自動化が大きく進むソサエティー5.0の時代では成り立たなくなる公算が大きい。』と述べられていました。(ソサエティー5.0については、※2をご参照ください。

この記事で興味深いことは、職種と自動化の関係を、職業を構成する業務が知識労働か作業労働か、定型か非定型かで単純化して象限を4つに分けた考え方にあり、この関係がとても分かりやすい図になっています(参照記事より引用)。

ある特定の職種の中にも非定型業務、定型業務、知識労働、作業労働のいずれも含まれている場合があるため、単純に職種単位でこの4象限のどれか一つに当てはめることが難しい側面もありますが、考え方を整理するうえでは有用であると考えます。

もし、現在携わっている職種、もしくは、これから携わろうとしている職種が定型、非定型、知識労働、作業労働という4つの軸で整理してみた場合、どの軸に近いかを考え、上図でいう第Ⅲ限と第Ⅳ象限に属している割合が多いと考えるのであれば、職種を変えるか、あるいは、その職種の中でも非定型業務と知識労働の部分を担えるような技能を磨く努力を行っていく必要があります。

この努力は、個々人が取り組むべき課題であることに間違いはありませんが、この記事のキーワードである「技能再教育(リスキリング)」は、社会的にも対応していくべき課題であると私は考えます。

「監査」という職種は、4つの象限に当てはめた場合、現状ではいずれの象限にも業務が散らばっていますが、これからは第Ⅱ象限と第Ⅰ象限が中心になっていくものと思われます。つまり、人手不足が深刻な監査業界においては、監査人がAIを駆使して効率的かつ深度ある監査を実現することが求められるようになると考えられます。AIを駆使するためには、監査人にはデータ分析の素養が必須となります。すべての監査人にデータ分析の素養を身につけてもらえるような「技能再教育(リスキリング)」に私は貢献していきたいと考えています

※1:日経電子版の会員限定の記事ですが、会員登録をすることで閲覧できます(有料記事については、数量が限定されています)。

※2:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました( http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html )。

 

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AI時代のニューディール

皆さん、こんにちは。

今回は、2018年2月22日付の日経新聞電子版の下記の記事に関する考察をお伝えしたいと思います。

AI時代のニューディール

この記事(※1)の筆者であるグローバル・ビジネス・コラムニストのラナ・フォルーハーさんは、『最近参加したある会議では、米国の世界的大企業の経営者らが、数年以内に仕事の30~40%を技術で置き換えることができるとし、その方法について話し合っていた。その上で彼らは、その規模でのリストラを実施した場合の政治的な影響について思い悩んでいた。』とし、この潜在的な雇用危機を好機に変える根本的な解決策を提案しています。すなわち、『自動化によって置き換えられる仕事は多いが、顧客サービスやデータ分析など切実に人材を必要とする分野の仕事も多い。従業員を解雇せずに新しい仕事ができるよう再訓練すると約束した企業には、税制上の優遇を与えればいい。』という提案になっています。

この記事では、AIが普及することで、労働市場においても格差が拡がるという可能性に警鐘を鳴らしています。

監査の世界でも『雇用の未来』 という論文(※2)において、「Accountants and Auditors」という職業の94%がAIやロボット等に置き換わるという刺激的な研究報告があるように、監査でも単調な仕事の部分は、AI等に置き換わっていくでしょう。

ただ、監査の本質は、監査テーマ(リスク・課題)から不正・誤謬等に関する仮説を設定して監査手続を立案し、監査手続に必要なデータを特定して、そのデータを使って監査手続を実施し、結果を評価するという仕事であり、決して単調な仕事ではないと私は考えています。

したがって、これからの監査人は、仮説立案技能、データ処理・分析技能、報告技能という3つの技能を高いレベルで身につける必要があるのです。逆説的な言い方をすると、これらの技能を身につけなければ、監査人として生き残っていけない時代になってきているのではないでしょうか。

※1:日経電子版の会員限定の記事ですが、会員登録をすることで閲覧できます(有料記事については、数量が限定されています)。
※2:Published by the Oxford Martin Programme on Technology and Employment, 2013

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